第5回:ピロリ菌

春は入学や就職、異動や転勤などで新しい生活が始まり、慣れない環境や人の中で緊張が続く季節です。ストレスのせいなのか、胃の調子がなんとなく気になるという人は多いのではないでしょうか。今回のコラムのテーマは胃潰瘍や十二指腸潰瘍の患者に感染者が多く、胃がんを引き起こす細菌として知られている“ピロリ菌”です。

ピロリ菌とは?

ピロリ菌の正式名称は「ヘリコバクター・ピロリ」といいます。本体の長さは4ミクロン(4/1000㎜)で、ゆるやかに右巻きにねじれています。くるくるまわりながら活発に動きまわることができます。胃には強い酸があるため普通の菌は死滅してしまいますが、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という特殊な酵素で身を守っているため、胃の中で生きていくことができます。そうして胃の粘膜に長い間ピロリ菌が感染し続けることによって胃炎や胃潰瘍などが引き起こされてきます。

ピロリ菌にどのように感染するか?

多くの場合、幼少期(5歳以下)に口からピロリ菌が入り胃に感染すると言われています。世界中でもピロリ菌の保持者が発見されており、特に発展途上国では感染率が高く、先進国では感染率が低い傾向があります。これはピロリ菌が食べ物や飲み物から感染しやすいためであり、上下水道の普及率の低かったり、衛生状態の悪いところでは菌が繁殖しやすく、感染する人も多いです。日本人の50%以上がピロリ菌に感染しており、中でも50代以降では保持者の割合が70%以上に達します。一度感染すると多くの場合、除菌しない限り胃の中に棲みつづけます。ピロリ菌に感染すると、胃に炎症を起こすことが確認されていますが、ほとんどの人で自覚症状はありません。

ピロリ菌と関連する病気

ピロリ菌に感染すると、ほぼ全員がヘリコバクター・ピロリ感染胃炎(慢性胃炎)になりますが、この状態では自覚症状はほとんどありません。感染が長く続くと、胃粘膜の感染部位は広がっていき、最終的には胃粘膜全体に広がり慢性胃炎となります。この慢性胃炎をヘリコバクター・ピロリ感染胃炎と呼びます。ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎が胃潰瘍、十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎を引き起こし、その一部が胃がんに進行していきます。日本では2013年にヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除菌治療が保険適用拡大されました。したがって、これからは全てのピロリ菌感染者に対して保険診療で除菌治療を行うことができるようになったため、胃がんをはじめとする多くの病気を予防できる可能性がでてきました。自覚症状がある方はもちろんですが、自覚症状がない方も一度はピロリ菌に感染しているかどうかを調べることをお勧めします。

ピロリ菌の検査

大きく分けて、内視鏡を使う方法と使わない方法があります。内視鏡を使う方法は、内視鏡で胃の組織を少し採取したのち①迅速ウレアーゼ試験 ②培養法 ③組織鏡検法のいずれかで検査します。内視鏡を使わない方法には①抗体測定法(血液、尿) ②尿素呼気試験 ③便中抗原測定法があります。ただし、ピロリ菌の検査はピロリ菌による慢性胃炎や胃潰瘍などの病気がないと保険診療で行うことはできません。

ピロリ菌の除菌治療

ピロリ菌の除菌治療は、2種類の抗生物質と1種類の胃酸の分泌を抑える薬の計3種類の薬を1日2回1週間飲むことで行います。除菌治療薬を服用した場合は、除菌薬服用後4週~8週後にピロリ菌が消えたかどうかの検査(除菌判定)を受ける必要があります。

胸やけがする、胃の上部がおかしいというときは、まずはピロリ菌に感染しているかどうか検査を受けてみましょう。